オービュッソン 宮﨑駿の空想世界をタピスリーに織る

オービュッソン国際タピスリーセンター × スタジオジブリ

文化・遺産

「カオナシの宴」『千と千尋の神隠し』を織る
© 2001 Hayao Miyazaki / Studio Ghibli, NDDTM © 2021 Cité internationale de la tapisserie - 「カオナシの宴」『千と千尋の神隠し』を織る

この記事は 0 分で読めます2025年4月14日に公開

タピスリー(綴織り)の街として知られるヌーヴェル・アキテーヌ地方のオービュッソンでは、織物芸術と日本のアニメーションが出会う、ユニークで夢のあるプロジェクトが進行中です。

スタジオジブリの名作映画が、フランス伝統のタピスリーに

オービュッソン国際タピスリーセンターでは、宮﨑駿監督のアニメ映画の名場面を題材に、6点の大型組み物タピスリーを制作する特別プロジェクトが進行中です。これは、17〜18世紀に盛んだった「物語性のある連作タピスリー」の伝統を現代に蘇らせる取り組みでもあります。

映画や文学といった物語世界を織物に転写し、観る人がその世界に没入できるよう設計されたこの試みは、タピスリーの歴史においても極めて珍しい挑戦です。

ユネスコ無形文化遺産であるオービュッソンの織物芸術と、スタジオジブリが描く豊かな想像力との出会い。タピスリーという永く残る芸術を通して、宮﨑駿の作品は新たなかたちで未来へと受け継がれていきます。

オービュッソンの街並み
© Jérôme Trindade - Creuse Tourisme - オービュッソンの街並み


2021年3月より1枚目の織り作業が始まり、これまで4作品が完成しています。全作品は2026年末に完成予定。

2025年は当シリーズから2作品が同時に日本で公開される貴重な機会。
 愛知県美術館では『千と千尋の神隠し』、大阪万博フランスパビリオンでは『もののけ姫』のタピスリーが展示されます。

1 - もののけ姫「呪いの傷を癒すアシタカ」

 「呪いの傷を癒すアシタカ」《Ashitaka soulage sa blessure démoniaque》 タピスリー(映画『もののけ姫』の一場面より)

© 1997 Hayao Miyazaki / Studio Ghibli, ND 製織:Atelier Tapisserie Guillot(オービュッソン、2023年) © 2022 Cité internationale de la tapisserie コレクション © Photo: Studio Nicolas Roger - 「呪いの傷を癒すアシタカ」《Ashitaka soulage sa blessure démoniaque》 タピスリー(映画『もののけ姫』の一場面より)

機織り開始:2021年3月
織り上がり:2022年3月25日


場面の概要:
悪魔に取り付かれた巨大猪のタタリ神が若い戦士アシタカの腕を傷つけました。呪いを受けたアシタカは、これを解く方法を見つけないと死んでしまいます。アシタカは自身と故郷の国に降りかかった脅威に打ち勝つ希望を胸に、相棒の大カモシカ、ヤックルの背に乗って西へと向かいます。スギの森に身を隠したアシタカは冷たい水で腕を癒すのでした。

 

シリーズ第1弾のタピスリー制作

制作はアトリエ・タピスリー・ギヨー・オービュッソンが担当し、約1年かけて縦5m×横4.6mの壮大な作品が誕生。完成披露は日仏のメディアで大きく報道され、YouTube中継は1万4千回以上の視聴を記録しました。

光と奥行きの表現、そして作品への敬意が込められたこの一作は、ジブリとフランス伝統技術の美しい融合として大きな注目を集めています。

大阪・関西万博のフランス館入口にて展示中のタピスリー
© Justine Emard - 大阪・関西万博のフランス館入口にて展示中のタピスリー

オービュッソンとジブリをつなぐ「手仕事の力」──空想を未来へつなぐアート

2025年4月18日、大阪万博フランス館のイベントで、スタジオジブリ執行役員・西岡純一氏が、オービュッソン国際タピスリーセンターとの協働について語りました。

すべてを手作業で仕上げるタピスリー制作と、手描きにこだわるジブリ作品。フランスの伝統工芸と日本のアニメーションは、国や文化を越えて「人の手」の力で響き合っています。

スタジオジブリの映画は、宮崎駿監督の頭の中に広がる空想の世界を、何百人ものスタッフが手を尽くして形にし、フィルムとして映像化した作品です。その一枚一枚には、人の手による繊細な表現と情熱が込められています。

しかし、どれほど丁寧に作られたフィルムであっても、時間とともに酸化し、色が褪せていくため、当初の姿を保ち続けるのは困難です。

一方、タピスリーは数百年を経てもなお、実際に手で触れられる「もの」として、この世界に残り続けます。

ジブリ作品のデジタル化やアーカイブ化が進むなか、タピスリーは、宮崎監督の空想世界を未来へと受け継ぐ、新たな手段となるのかもしれません。

 


2- 千と千尋の神隠し「カオナシの宴会」

「カオナシの宴」《Le Banquet du Sans visage》 タピスリー(映画『千と千尋の神隠し』の一場面より)

© 2001 Hayao Miyazaki / Studio Ghibli, NDDTM 製織:Manufacture Robert Four(オービュッソン、2023年) © 2023 Cité internationale de la tapisserie コレクション © Photo: Studio Nicolas Roger - 「カオナシの宴」《Le Banquet du Sans visage》 タピスリー(映画『千と千尋の神隠し』の一場面より)

機織り開始: 2022年1月
織り上がり: 2023年1月20日

場面の概要:
カオナシは豚に姿を変えられた両親をさがす千尋を手伝いますが、巨大な大食漢になって行きました。宴会を荒らしまくり、千尋を出せと要求するカオナシ。千尋が河の神にもらった薬草団子を食べさせると、カオナシはそれまでに飲み込んでいた人々をすべて吐き出します。

2025年4月~ 愛知県美術館で公開
© 2001 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDTM - 2025年4月~ 愛知県美術館で公開

3- ハウルの動く城「ハウルの動く城(夕暮れの動く城)」

「夕暮れの動く城」《Le Château ambulant au coucher du soleil》 映画『ハウルの動く城』の一場面をもとにしたタピスリー

© 2004 Diana Wynne Jones / Hayao Miyazaki / Studio Ghibli, NDDMT 製織:Atelier A2、Atelier Les Just’lissières(オービュッソン、2023年) © 2023 Cité internationale de la tapisserie コレクション © Photo: Studio Nicolas Roger - 「夕暮れの動く城」《Le Château ambulant au coucher du soleil》 映画『ハウルの動く城』の一場面をもとにしたタピスリー

機織り開始: 2022年6月
織り上がり: 2023年4月21日

場面の概要:
ソフィーは18歳の娘、それが荒地の魔女の魔法によって90歳の老婆に変えられてしまいます。彼女は住んでいた町を離れてカブの頭をもつカカシに出会い、動く城へ行く道を教えられます。それこそは、若く魅力的で謎めいた魔
法使いハウルの住む城だったのです。


4- ハウルの動く城「ハウルの恐れ」

「ハウルの恐れ」《La Peur de Hauru》 タピスリー(映画『ハウルの動く城』の一場面より)

© 2004 Diana Wynne Jones / Hayao Miyazaki / Studio Ghibli, NDDMT 製織:Atelier Tapisserie Guillot(オービュッソン、2023年) © 2023 Cité internationale de la tapisserieコレクション © Photo: Studio Nicolas Roger - 「ハウルの恐れ」《La Peur de Hauru》 タピスリー(映画『ハウルの動く城』の一場面より)

機織り開始: 2022年6月
織り上がり: 2023年6月16日

場面の概要:
鳥に姿を変えた魔法使いハウルは戦闘から疲れきって帰って来ました。おまけに城を掃除したときにソフィーが彼の持ち物を動かしたため、ハウルの金髪が黒髪に変わってしまいます。すっかりしょげ返るハウルの枕辺に寄り添うソフィー。ハウルはソフィーにうち明けます。自分は怖い、王様が他国へ仕掛けた戦争で魔法使いとして果たすべき責任感が自分には欠けていると。そしてソフィーに、自分の母のふりをして王室付き魔法使いサリマンに会い、自分は戦いを拒否すると伝えてくれるよう頼むのでした。


5- となりのトトロ「メイとトトロのお昼寝」

「メイとトトロのお昼寝」《La Sieste de Mei et Totoro》 カーペット下絵(映画『となりのトトロ』の一場面より)
© 1988 Hayao Miyazaki / Studio Ghibli © 2024 Cité internationale de la tapisserie コレクション © Photo: Studio Nicolas Roger - 「メイとトトロのお昼寝」《La Sieste de Mei et Totoro》 カーペット下絵(映画『となりのトトロ』の一場面より)

機織り開始: 2025年初め
織り上がり: 2026年夏


場面の概要:
庭のトンネルで不思議な小さな生き物を追いかけていたメイは、父の目を盗んで地下の洞穴へと落ちてしまいます。そこで彼女が出会うのが、森の大きな守り神であるトトロ。トトロは眠っており、メイもその巣穴で繁茂する草木に囲まれながら、一緒にお昼寝をします。


6- 風の谷のナウシカ「“腐海”の秘密」

「“腐海”の秘密」《Le Secret de la Fukai》 タピスリー制作構想(映画『風の谷のナウシカ』の一場面より)
© 1984 Studio Ghibli - H - 「“腐海”の秘密」《Le Secret de la Fukai》 タピスリー制作構想(映画『風の谷のナウシカ』の一場面より)

機織り開始: 未定
織り上がり: 未定

場面の概要:
トルメキア帝国に追われたアスベルとナウシカは、巨大な有毒の森「腐海」に落ち、ある発見をします。
地中では、石化した樹木が千年前の戦争で人間によって汚染された大地と水を浄化していました。
アスベルの復讐計画には加わらず、ナウシカは「腐海」に対する自身の直感に導かれながら、自らの道を進ん
でいきます。


プロジェクトをめぐって

国際タピスリーセンターに宮﨑駿の専用展示スペース

タピスリーは完成の段階に応じて、国際タピスリーセンター内の宮﨑駿専用展示スペースで順次公開されます。

来館者がこの特別な文化遺産プロジェクトの世界観に深く没入できるよう、2021年5月に新たな可変型の展示スペースが設けられました。
「オービュッソン、宮﨑駿の空想世界を織る」プロジェクトでは、タピスリーが薄暗い空間の中で展示されており、照明に浮かび上がるようにして、黒いフレームに収められた将来のタピスリーの下絵が紹介されています。

完成したタピスリーは、国際タピスリーセンター以外での展示が予定されていない限り、このスペースにて順次公開されます。
将来的には、センターの増築に伴い、宮﨑駿作品のための常設展示スペースが新設される計画です。

 

国際タピスリーセンター機織り工房の見学

現在、オービュッソン国際タピスリーセンターの工房では、スタジオジブリの名作『となりのトトロ』を題材にしたタピスリー作品「メイとトトロのお昼寝」が制作されています。
この工房は一般公開されており、ガイド付きツアーでは、伝統的な織機による制作風景を間近で見学したり、実際に制作に携わる職人との会話を楽しむこともできます。

また、YouTubeで公開されているミニシリーズ「オービュッソン、リュックと姫」では、『もののけ姫』の一場面をテーマにしたタピスリーの制作過程を紹介。オービュッソンで修業を積む若き織り手リュックの目を通して、作品が少しずつ形になっていく様子が丁寧に描かれています。

 

完成を祝う「トンベ・ド・メティエ」

「トンベ・ド・メティエ(tombée de métier/織機からの降下)」とは、タピスリー制作における最後の重要な工程を指します。完成したタピスリーを織機から切り離す際、関係者が一人ずつタピスリーの端の糸を丁寧に切り、儀式のようなかたちで作品を仕上げます。
タピスリーは通常、裏側から織られていくため、この瞬間に初めて、その全体像が表側から明らかになります。

国際タピスリーセンターでは、今後も宮﨑駿シリーズのすべてのタピスリーにおいて、この「トンベ・ド・メティエ」のセレモニーをYouTubeでライブ配信し、多くの方々にこの特別な瞬間を共有していただけるようにしています。

国際タピスリーセンターの YouTube チャンネルでの「トンベ・ド・メティエ」ライブ中継はこちら ➡ Cité internationale de la tapisserie Aubusson

 

「ハウルの恐れ」『ハウルの動く城』のトンベ・ド・メティエ(織り上がりセレモニー)
© 2004 Studio Ghibli, NDDMT © Cité internationale de la tapisserie - 「ハウルの恐れ」『ハウルの動く城』のトンベ・ド・メティエ(織り上がりセレモニー)


 

国際タピスリーセンター
© Jérôme Trindade - Creuse Tourisme - 国際タピスリーセンター

実用情報

オービュッソン国際タピスリーセンター

Cité internationale de la tapisserie – Aubusson
Rue des Arts - BP 89 23200 AUBUSSON

パリからのアクセス
・パリ・オーステルリッツ駅(Paris-Austerlitz)からBrive方面の都市間急行(Intercite)に乗車し、La Souterraineで下車。
・La Souterraine駅からAubussonまでTER運行によるバス。

入場料
・正規料金 9 €
・割引料金 6.50 €:学生、25歳未満、65歳以上10人以上の団体、carte Cézam 保持者 
・無料:18 歳未満、 ICOM(国際博物館会議)カード、carte de presse(プレスカード)保持者

開館時間
9月~6月:9:30 ~ 12:00、14:00 ~ 18:00
火曜休館
7月~8月:10:00 ~ 18:00
火曜午前中を除き毎日開館

ガイド付き見学
ガイド付き見学は要予約:所要時間:1時間~ 1時間半
 問合せは受付まで + 33 (0)5 55 66 66 66 (代表番号にかけて2をチョイス)
無料のガイド付き見学:7月、8月の 10:30、15:00
センター内のアトリエ見学:問合せは受付まで

by France.fr編集部

France.fr編集部はフランスのトレンドや最新のニュースをお届けします。

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